今日見るのは、デンマークの医師・博物学者オーレ・ヴォーム(Ole Worm, 1588–1654)の収集室を描いた、1655年刊『Museum Wormianum』の見開き銅版画です。ヴォームの死後、ライデンで刊行された同書は、彼の自然史コレクションを記録したもので、この図版はG. Wingendorpによるものです。Science History Institute所蔵本はパブリックドメインとして公開されています。
① 何が描かれているか。
壁も天井も棚も、ほとんど空白がありません。魚や鳥の剝製、骨格、貝殻、巨大な亀甲、角、鉱物らしき標本、武器や道具が、大小入り交じって並んでいます。中央には物を取り出して観察するための机があり、部屋全体が巨大な分類装置のようです。書物そのものも、鉱物・植物・動物・人工物という大きな区分で編成されていました。
② 17世紀の人にはどう見えたか。
これは現代の博物館というより「驚異の部屋(Wunderkammer)」です。珍奇なものを集めることは、単なる趣味ではなく、世界の多様性を一室に縮約して見せる知的行為でした。まだ生物学・地質学・民族学といった専門分野が分離していないため、自然物と人工物が同じ視野に置かれています。ヴォームの特徴は、王侯の豪華な珍品だけでなく、北欧の比較的身近な自然物も収集対象にした点でした。
③ 現在の知識から何が見えるか。
面白いのは、「分類学が未熟だった」と見るだけでは足りないことです。ここでは、まず物を集め、並べ、比較し、触れ、記述するという手続きが先にあります。現代科学では分類体系が先に見えるため忘れがちですが、知識はしばしば、このような雑然とした具体物の集積から生まれます。完成した百科事典ではなく、百科事典になる直前の世界が一枚の絵になっている、と見ると、この部屋は急に現代的に見えてきます。
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