1998年8月27日木曜日

本を回して読む


図:本を回して読む,16世紀の「多窓表示」(科学史協会デジタルコレクションから)


今朝の一枚は、イタリア出身の軍事技術者アゴスティーノ・ラメッリが1588年に刊行した『Le diverse et artificiose machine(さまざまな精巧な機械)』第188図の「ブックホイール」です。Science History Institute が公開する原図はパブリックドメインで、複数の本を場所を取らずに参照するための装置として説明されています。([サイエンスヒストリーインスティテュート デジタルコレクション][1])

①何が描かれているか。
大きな垂直の車輪の周囲に、何冊もの本が開いたまま載っています。読者は椅子に座り、車輪を回して必要な本を自分の前へ運ぶ。しかも本を載せる棚は、歯車機構によって回転中も水平を保つよう設計されています。現代風に言えば、一冊ずつ閉じて棚から出す代わりに、複数の資料を常時「開いた状態」で切り替える装置です。([サイエンスヒストリーインスティテュート デジタルコレクション][1])

②当時の人にはどう見えたか。
ラメッリの本は、水揚げ機、製粉機、攻城機械など約200点の装置を収めた、16世紀末の「機械劇場」と呼ばれるジャンルの代表例でした。そこに読書装置が一台だけ紛れ込んでいるのが妙です。大量の書物を同時に参照する必要がある学者にとって、これは単なる珍発明ではなく、知識の増加そのものへの機械的回答だったのでしょう。ラメッリ自身は、足の病気などで動きにくい人にも有用だと説明しています。([Smithsonian Institution Libraries][2])

③現在の知識から見ると
この図はほとんど情報インターフェースの設計図に見えます。重要なのは「本を読む機械」ではなく、複数の情報源を同時に保持し、注意だけを切り替えるという発想です。ブラウザのタブ、複数ウィンドウ、論文PDFの行き来と基本構造が似ています。

ただし、便利さには逆説もあります。参照できる本が増えるほど、読むことは深く一冊に沈む行為から、複数資料を横断する行為へ変わる。情報過多はインターネットが生んだ問題ではなく、印刷物が増えた16世紀にもすでに機械化の対象だった、とこの一枚は教えてくれます。

[1]Science History Institute Plate 188: Book wheel(?utm_source=chatgpt.com)

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